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神奈川県川崎市のどうぶつにやさしい総合診療動物病院です。

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ワンちゃん・ネコちゃんの皮膚腫瘍シリーズ

動物の腫瘍

 人間も含め、正常な動物の体を構成する細胞は、定められた範囲内で再生や増殖を繰り返しています。しかしその一部が、個体自身の規律をまったく無視して、勝手に増殖してしまうことがあります。これが腫瘍です。近年、ペットの腫瘍発生率は増加傾向にあります。この原因として、獣医学の発展によりワンちゃん・ネコちゃんの寿命が飛躍的に延びたことや、その発見率が向上したことが挙げられるでしょう。ワンちゃんが腫瘍になる確率は人間のおよそ2倍で、人間と同様にガンが死因のトップになる日もそう遠くはないと言われています。 腫瘍は生物学的かつ臨床的な見地から、良性腫瘍と悪性腫瘍とに分けられます。良性腫瘍は一般的に発育速度も遅く、その影響は発生した場所に限られることが多く、生命を脅かす危険性はわずかです。それに対し悪性腫瘍は、発育速度が速く、他臓器への転移など全身的な影響もきわめて大きく、死に直結することもあります。全身的な症状や画像診断に併せて、細胞診などの病理学的検査によって腫瘍の種類、タイプ(良性・悪性)を診断します。どのような腫瘍であるかによって内科的療法、外科的療法を決定し、場合によっては放射線療法や免疫療法なども組み合わせて、治療を行います。 ワンちゃんの腫瘍発生部位のトップは皮膚・軟部組織で、全腫瘍のうち約60%をこの部位が占めます。皮膚の腫瘍は、腫瘍の中でも飼い主さんが比較的早期に発見しやすいものです。日頃からブラッシングやシャンプー等により動物の体に触る習慣をつけ、しこりや皮膚病変を見つけた場合には早めに獣医師に相談しましょう。


○扁平上皮癌

 扁平上皮癌は、ワンちゃんで皮膚腫瘍の320%、ネコちゃんで1725%を占めますが、特に白色のネコちゃんでは注意が必要です。その他にも、ダルメシアン、ビーグル、ウィペットといった明るい毛色の犬種や、被毛が薄い、メラニン色素が少ないなどの特徴をもった動物では、その発生率は高くなります。扁平上皮癌は発症にウイルスや免疫抑制が関与するほか、大きな原因のひとつとして、「紫外線」の影響が挙げられます。上記のような特徴をもった動物では、紫外線の刺激を肌に受けやすく、扁平上皮癌を発症しやすくなります。ネコちゃんでは耳やまぶた、鼻先など、日光の刺激を受けやすい部位での発生がみられます。扁平上皮癌の多くは、初期に日光性皮膚炎を発症します。耳や鼻先に、皮膚のカサつきや、スリ傷のような病変がみられるようになり、さらに症状が悪化するとただれや潰瘍がひどくなり、扁平上皮癌へと進行します。発生した腫瘍は手術によって切除しますが、扁平上皮癌は周囲に広がりやすいため、広範な切除が必要になります。しかし、鼻やまぶたなど、顔面の重要な器官であることも多く、広い切除が困難である場合も少なくありません。特にネコちゃんにおいては紫外線に当たらないよう、室内で生活させることが予防になります。しかし、室内でも、その発生を防げないこともあります。普段から鼻や耳周辺の皮膚をチェックし、皮膚があれていたり、スリ傷のような状態がなかなか治らない場合は、動物病院で診察を受け、早期発見・早期治療を心がけましょう。

○肥満細胞腫

 人間では発生がみられない腫瘍に「肥満細胞腫」があります。肥満細胞腫は、ワンちゃんの皮膚腫瘍の7〜20%、ネコちゃんにおいても全腫瘍の15%を占め、我々獣医師が遭遇する機会の多い腫瘍です。その発生率は、加齢とともに高くなりますが、非常に若い年齢で発生することもあります。この腫瘍、名前は「肥満」細胞腫ですが、太っているからできる、というわけではありません。正常に存在する「肥満細胞」という細胞が、異常分裂して腫瘍を形成したものです。肥満細胞は通常、外部から侵入した異物に対して、体を守るように働きます。例えば、虫刺され・花粉などに対して、肥満細胞が顆粒を分泌し作用することで、かゆみ・炎症を起こしたり、鼻水や膿を出して、毒素を外へ出そうとします。しかし肥満細胞が腫瘍化した場合、この顆粒が大量に分泌されることで、様々な問題を引き起こしてきます。これは腫瘍随伴症候群と呼ばれ、たとえば顆粒のひとつであるヒスタミンは、急性炎症やかゆみなどの症状のほか、胃酸分泌を促進することで、消化管潰瘍を引き起こします。またヘパリンは、腫瘍化した病巣の出血時間の延長や、血液凝固障害を起こします。このように、一見して皮膚の腫瘍とは関係のない症状がみられることも、この腫瘍の大きな問題点です。治療は、細胞診や種々の検査で、腫瘍の悪性度や症状の進行度を分類し、それぞれに応じて広範囲の外科的切除、ステロイド療法、化学療法、放射線療法などを行っていきますが、進行度によっては根治が困難なことも少なくありません。

○皮膚組織球腫

 膚と皮下組織の腫瘍の中で一番多く発生する腫瘍に「皮膚組織球腫」があります。皮膚組織球腫は、ワンちゃんでは大変よくみられる良性の腫瘍です。「腫瘍」というと、高齢の動物での発生をイメージするかもしれませんが、皮膚組織球腫は、発生の多くが4歳以下の若いワンちゃんでみられるという特徴があります。ボクサー、ブルドッグ、ダックスフンド、シュナウザー、シェットランドシープドッグなどの犬種でよく見られ、光沢のある、円形に膨れあがったドーム型の腫瘍を形成します。0.54cm程の大きさで、耳・足・胴体によく発生します。前足などはワンちゃんの目にも付きやすいので、舐めてしまい、二次的に潰瘍が生じ、問題となることがあります。皮膚組織球腫は、通常の腫瘍とは異なり、36ヶ月以内に自然治癒することもありますが、このようにワンちゃんが気にして舐めるようであれば、切除が必要になります。皮膚組織球腫の診断には、腫瘍を注射針で刺し、細胞を採取して行う細胞診も有効ですが、やはり確定診断には、治療をかねた全切除・病理組織学的検査が必要となります。前述したように、皮膚組織球腫は自然退縮することもありますが、退縮しなかった場合、あまり大きくなってからの切除では皮膚の欠損も大きくなるため、出来るだけ早期の切除が望ましいでしょう。また、同時に病理組織学的検査を行い、他の厄介な腫瘍(肥満細胞腫、リンパ肉腫など)との鑑別診断を行うことで、予後の判定が可能になります。皮膚組織球腫であれば、通常は転移もなく、術後の経過も良好です。

○黒色腫

 強い日光を浴びた時、私たち哺乳類の身体は、紫外線から受ける細胞へのダメージを減らすために、「メラニン」を生成します。このメラニンを作る細胞を「メラニン細胞」または「メラノサイト」と呼びますが、この細胞が時にワンちゃん、ネコちゃんで腫瘍化することがあります。この腫瘍は「黒色腫」と呼ばれ、良性のものと悪性のものが存在します。皮膚に発生する黒色腫は、全皮膚腫瘍の中でワンちゃんは2〜3%、ネコちゃんでは2%を占める程度で、それほど頻繁に診断される腫瘍ではありません。ほとんどが焦げ茶〜黒色を呈し、無毛のドーム型の形をしています。悪性の場合は、しばしば表面が潰瘍化していることがあります。一般に老齢の動物でみられ、コッカー・スパニエル、ボクサー、ゴールデン・レトリーバー、ミニチュア・シュナウザー、チワワ、ドーベルマン・ピンシャーなどが好発犬種に挙げられます。治療は、他の腫瘍と同様に広範な切除を行い、同時に病理組織学的検査にて確定診断をします。皮膚に発生する黒色腫は、一般的に良性です。ただし例外的に、陰嚢や爪の付け根に発生したものは悪性であることが多く、注意が必要です。また、眼周囲やくちびるなどの皮膚と粘膜の境界部や、口の中に発生した黒色腫は、ほとんどのケースで悪性と診断されます。悪性の黒色腫は成長が早く、他の臓器への転移率も高いため、数ある腫瘍の中でもその悪性度が高いことで知られています。口の中など、発生場所によっては完全な切除が困難である場合も多く、より早期の発見と治療が大切になってきます。

 ○脂腺系腫瘍

脂腺は通常、体毛1本1本に対する付属器として存在し、皮脂を分泌します。皮脂は皮膚の潤いを十分に保持し、様々な環境要因から保護するためのバリアとして、大切な役割を担っています。高齢のワンちゃんでは、この脂腺の細胞が腫瘍化してしまうことがあります。脂腺系の腫瘍は、大別すると、良性腫瘍である脂腺腺腫および脂腺上皮腫と、悪性腫瘍である脂腺癌とに分けられます。脂腺腺腫はプードル、コッカースパニエル、ミニチュア・シュナウザーで、脂腺上皮腫はシーズー、シベリアン・ハスキー、アイリッシュ・セッターで、特にその発生率が高くなります。脂腺癌は、ワンちゃんネコちゃんともに発生はまれではありますが、ペルシャネコでは、その発生が比較的多くみられます。 脂腺系腫瘍の、皮膚および皮下腫瘍に占める割合は、ワンちゃんで約6〜8%、ネコちゃんで約2〜4%で、特に高齢のワンちゃんでは多く、頭部にその発生がよくみられます。特徴的な、イボ状またはカリフラワー状の増生物として発見され、直径は数mm〜数cmのものまで様々、表面は脱毛し、潰瘍化していることもあります。治療は外科的に切除を行うことで、通常治癒します。脂腺系腫瘍における治療方法の一つとして、炭酸ガスレーザーを用いた処置があります。炭酸ガスレーザーは、組織に含まれる水分と反応して熱を産生することで、その部分の組織を蒸散させます。電気メスよりも熱による障害が少なく、また金属のメスよりも出血が少なく、創傷治癒が早いのが特徴です。また、最大のメリットとして、全身麻酔なしでの処置が可能であり、多発性の脂腺系腫瘍を患うワンちゃんでは、非常に有効な治療方法です。

○脂肪腫

脂肪腫は、皮下の脂肪が無制限に増殖して大きな脂肪のかたまりを作る、良性の腫瘍です。この腫瘍は、高齢のワンちゃんでよく発生がみられます。肥満傾向にある女の子のワンちゃんでは、その発生率が高くなります。脂肪腫は、体表にドーム状の膨らみとして発見され、体のあらゆる場所で発生する可能性がありますが、中でも胸、お腹周りでの発生は多く見られます。基本的に軟らかいものが多いですが、筋肉の間に発生した場合は、比較的固く感じられます。発生した脂肪腫が大きく、生活をする上で不自由がある場合や、痛みを伴う場合などでは、手術によって切除をする必要があります。脂肪腫は薄い線維性の膜に包まれていることが多く、切除による根治が期待できますが、中には被膜をもたずに増殖する脂肪腫もあり、その場合は周囲の筋組織内へ活発に浸潤してしまうため、切除をしても再発することがあります。 また、外見は脂肪腫でも、まれに「脂肪肉腫」という、脂肪由来の悪性腫瘍である場合があります。発見した膨らみが、脂肪腫であるのか脂肪肉腫であるのか(はたまたそれ以外の腫瘍なのか)、正確な診断にはバイオプシー検査ならびに病理組織検査を行います。脂肪腫や脂肪肉腫は、ある程度の大きさになってから来院されるケースの多い腫瘍です。その腫瘍が脂肪肉腫であった場合は、全身への転移の可能性が高くなります。また、脂肪腫も大きくなってからの摘出は傷口が大きく、ワンちゃんの体にかかる負担も大きくなります。








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